大海赫!
名前からしてこわい!
この人の書くお話はどれもこわい。
話の内容もさることながら、生々しい彫り跡を残した木版画、デフォルメされたグロテスクな人間がこわい。(この人、人間嫌いだと思う。)
なんかもう神経に訴えかけるようなこわさだよ。
なぜこんなにもこわいのだろうか?
それはその「こわさ」が子供の持つむきだしの残酷に他ならないからだろうと思う。
善悪の基準が曖昧な子供が振るう容赦のない残虐性が物語られているから。
この人の本を読むと、大人になる過程で得たお行儀の良い倫理観などすっ飛ばされてしまう。
そして子供の頃に持っていた残虐性をまざまざと読み手は思い出し、背中をぞくりとさせる。
自分に備わってた残酷さを目の当たりにして足元をすくわれたような気になるんだよ。
読むと居心地が悪くなるもん。
『ビビを見た!』は大海赫の本の中でも特に残酷な話であるように思う。
自分の耳に入る音ですらこんなに煩わしいのに、目が見えるならそれはどんなにうんざりすることだろう、と厭世観を漂わせる盲目のホタル少年。
そんな彼に「7時間だけ見えるようにしてやろう」と言う声が聞こえる―――。
って!
盲目の少年が7時間限定で目が見えるようになる、って設定自体がもうさ、どうしようもないくらい残酷じゃねーか?
それって少年がそれまで生きてきた時間も、7時間から先に生きるであろう老いるまでの時間も、無価値のように感じさせやしないかい?
そりゃないよ、ってもんだろー。
自分以外の人間が全員盲目になってるってのもなぁ。
その7時間のうちにみた美しい緑色の少女ビビ。
ホタルはビビを見ることができたから良かったのかなぁ。
良い、ってんだからそれで良いんだろうけどさ、
世界で一番美しいビビをみたのだからそれで良い。などと少年に諦観を抱かさせるのはどうなのだ。ホタルはまだまだ若いんだぞ。
後も先も打ち消してしまう、ただそれだけで良いのだ、と思わせてしまう至高の7時間。
それってすげーこわいよ。
ものすごくこわい。
人の生きる時間を語っていないこわさだ。
煮詰めて煮詰めて純化した時間なんてのは人間の時間じゃないよね。
人間は夏場の蝉じゃないんだからさー。
ところで、
ビビを追いかけて暴れる巨人のワカオはなんだろね?
若さの象徴?
若く、目隠し猪状態の、例えるならば至高の美を追い求める芸術家みたいなものの象徴?
ビビは追いかけてもちっとも到達できない“美”の象徴?
たとえ一瞬だけでも究極の美に寄り添うことの出来たホタルは幸福な芸術家みたいなもの?
そこに辿り着けずもがき苦悩するものになるのか、美を手に入れ閉じていくものとなるのか、って?
どっちの行き着く先も知りたくねーなー。