この人の本ってだいたい読んでいる気がするな。
ただノンフィクションがすきなのか、この人の熱を持ったような文体がすきなのか、どうなんだろう。
あまり考えたことなかったな。
はじめて読んだのは『深夜特急』。
大学進学で東京へ出てくる直前に読みはじめたのが最初だ。
よく聞く話に、「本には読むのにふさわしい年齢なり時期がある」ってのがある。
一概にこうとばかりは言えないと思うのだが、この『深夜特急』に関して言えばまさに読むにふさわしい時期に読んだ本、と思えてならない。
あのときに読んで良かった、と思える本だ。
その一字一字が熱をおび、読み手に旅の臨場感を伝える。
それが新しい環境で生活を始めた十代の終わりには、まったくぴったりとはまった。
どこを見ても、どこへ行っても、なにもかもが新鮮で目新しく、不安だったあの頃。
しかし、吹けば飛んでしまうような存在の軽さ、心細さ、それが妙に身軽に感じられたのも事実だ。
日本語の通じない国へ旅をしたとき感じる幸福な孤独感にそれはとてもよく似ていた。
自分がどこにも属していない、そんな気持ちをぶらさげながらはじめた生活は、徐々にゆったりとした日常へと変化し、自分の立ち位置を見定めたときに強行な日程で進む旅ではなくなる。
その過程を過ごす間、ずっと傍らにあった『深夜特急』は<旅>の道連れであったように思うな。
ひりひりとしたできたての傷口のような文章は熱を持ち、<旅>をはじめたばかりの頼りない私を引っ張ってくれていたように思う。
それはとても心強く、確かなものだった。
学校なり、仕事なり、なにかに属してしまったときに感じる息苦しさはやがて薄れて日常になるだろう。
しかし旅は死ぬまで続くのだ。
その旅が穏やかなものになるか、激しいものになるのかなど誰にも分からない。
ただ、この『深夜特急』を読んでいたあの頃、
途中で熱を冷ますようにして本から顔を上げたときに感じた冷たい空気。
あのすぅっと冷静になる感覚をいつまでも持ち続けていたいと強く思う。
あの空気こそが私の旅になにより必要な情熱であるように思うから。